2020年はコロナ禍で慌ただしい一年だったが、僕のオーディオ環境に関しては何が起こったのかを例年のように総括しておきたい。
2020年を一言で言うとアナログ再生、しかもシュアーのMMカートリッジに入れ込んだ年であったといえよう。
時系列でいうと、まず2月中旬にシュアーのM44Gをメルカリで入手したのが始まり。2年ほど前に生産が終了しているM44Gをなんで今更?ということなんだけど、オーディオ誌で読んだJICO社の「Kurogaki」というスタイラス(交換針)に興味を持ったのがきっかけだ。
この「Kurogaki」だが、その名の通り柿の木の内部にできる黒い渋のような部分を削りだしてカンチレバーとして使っているもの。カンチレバーの材質にはアルミ、ボロンなどの金属系の材料が使われるのが一般的なので、柿の木のような天然素材を使うということに俄然興味を持った。
「Kurogaki」を作っているのは兵庫県の日本海側、山陰本線の浜坂駅にほど近いJICOという交換針の専業メーカーだが、僕の好きなオーディオ評論家のT氏だけでなくレコード好きの多くの人たちから熱く支持されている会社。そこの森田さんという方が「Kurogaki」を考案、製作されているらしい。
さて、その「Kurogaki」だが、物珍しいだけでなくその音についても評判が良い。ということで、「Kurogaki」を使いたいがためにM44Gを買ったという次第。後述の理由で都合2個を購入することになった生産終了のM44Gの未使用品はちょっとプレミア価格だった。
折角「Kurogaki」を使うのであるから、オリジナルのM44Gとは別にもう一つM44Gを手に入れて、シェルやカートリッジのハウジングを黒檀のものに換えてみた。ちょっとした改造が必要だったが、難易度も低くDIYを楽しむことができた。
出来上がったM44G改は「Woody」と命名、その名のイメージ通りの滋養に富んだ(?)自然・天然の音色がする、大満足。
これをきっかけにシュアーのMMカートリッジにのめり込む。
シュアーといえばV15シリーズだが、その最高峰はType-3(III)である。奇しくもちょうどこのタイミングで、かの一関ベイシーのマスターの菅原氏とJICO社の共作である「ベイシーモデル」が数量限定で発売された。
カートリッジ本体は中古品をメルカリで安価に入手、「ベイシーモデル」の到着を待って合体、ここに目出度く「15 Type-3 Basie Special」の登場である。
オリジナルのType-3を聴いたことがないので、カートリッジの実力が高いのか、はたまた「ベイシーモデル」のお陰なのかはわからないが素晴らしい音色だ。「Woody」も良いがこちらの方が格が何枚も上という感じである。
V15 Type-3と並行してType-4(IV)の蘇生にも挑戦。こちらにもJICO社からいくつもの交換針が用意されているが、その中からボロンカンチレバー+SAS針という現代技術の粋を集めた仕様を選択した。
V15といえばType-3だと言われるが、実はこのType-4の実力も捨てがたいものがある。精緻・繊細にして叙情的という誉め言葉が当てはまるほど優れたカートリッジだった。
この他にも「Kurogaki」と同様に木材を使った「牛殺」をM44とV15用で使ってみたり、DJ用と言われるM44-7を使ってみたらその素状の良さにビックリしたりと、今までMCカートリッジ一辺倒だったアナログ再生に新たな風が吹き込まれた一年だった。
このMMカートリッジ旋風の副作用としてMCの良さを再認識できたことも収穫であった。
アナログ再生に際しての大きな課題はレコードのクリーニングである。
ジャズやクラシックの名盤は比較的安価に手に入るのだが、その多くが1960年代から1980年代にリリースされたもの。よってコンディションは様々で、中にはカビや汚れなどを本格的なクリーニングで落としてやる必要があるものも混ざっている。
最初の頃はクリーニング用に入手したターンテーブルの上でクリーニングキットを使ってチマチマとやっていたのだが、5月ごろから本格的な洗浄に取り組んだ。
水道水と中性洗剤を使ってレコードを洗うわけだが、その作法は様々だ。ネットや本で得た情報を元に自分なりのプロセスを編み出し、それをまた改良していくというのの繰り返しの結果「レコード洗いの儀」なる作法に行き着いた。未だ改善の余地は残されるが、かなりのレベルまで到達したといえるだろう。
物理的な汚れは洗浄によってかなり除去はされるものの、次なる厄介者は静電気である。絶縁された塩化ビニールの表面をダイヤモンドで引っ掻くのだからレコードは帯電する。静電気でバチバチだ。しかもこの静電気、空気中のホコリを吸い寄せるから始末が悪い。洗浄されて見た目はピッカピカなのにプチプチというノイズが聞こえてくるとイラっとする。
静電気対策としてまず投入したのがナガオカの静電除去スプレーだったが、これは副作用としてレコード溝に妙な堆積物ができ易いので敬遠。以前から使っている静電除去ブラシだけでもある程度はいけるのだが、何か決め手になるものが欲しい、と思っていた時に偶然見つけたのがARCA-ASというトーンアーム型の静電除去ブラシ。アースケーブルで接地してやる仕組みなので効果は絶大だった。
これに加えて湘南台のオーディオショップDオリジナルの山羊の毛ブラシ、凄い密度の毛でレコード溝のホコリを掻き出してくる、ただそれだけだと永遠にレコード盤上からホコリは拭えないので粘着ローラーを使って最後の仕上げをするようにしている。
同様にスタイラス先端の汚れの除去にも粘着タイプのクリーナーを重宝している。「Kurogaki」や「牛殺」には液体系のスタイラスクリーナーが使えないので一石二鳥である。
と此処までアナログ再生のことばかりだったが、一つだけ大物ハードウェアの入れ替えがあった。スピーカーケーブルである。
今まで使っていたWire WorldのEclipse-6はその太い重低音が好きだったのだが、購入するときに長さを見誤った。ケーブルの剛性も高いし、スピーカー側のバナナプラグからの飛び出しを考えると現在のレイアウトではパッツンパッツンで精神衛生上非常にヨロシクない状態だったのだ。しかしながら高価なものであったので買い替えを躊躇していたのだが、夏ごろに予定外の収入があったのでそれを財源として入れ替えを決心した。
次なるケーブルに求めるのは長さ問題の解決は勿論だが、それに加えてどちらかというと個性的な音だったEclipse-6からみれば正反対の色付けのないケーブルという特性も重視した。いくつかの候補をオーディオショップDと相談した結果、クライナのSPCA-7というケーブルにいき着いた。
端末処理に関してはオーディオショップDの得意技のQEDのAirLockとし、アンプ側シングルでスピーカー側はバイワイヤでいずれもバナナプラグとした。加えてスピーカー側には最近話題のアモルメットを装着してみた。
このケーブルは凄い。システムの何から何まで清濁併せ吞んだものを吐き出してくる。なにも隠さないし、なにも足し引きされない。
スピーカーケーブルによる音作りという選択肢はなくなったが、他の全ての機器の実力や音源の情報を全て表現できるのではないかと思い始めている。DG-48を使ってヴォイシングを済ませたので現在はニュートラルである筈。これで音作りのベースラインがしっかりできた。
以上が2020年の振り返りである。
コロナウィルスによる在宅勤務もあって、例年よりオーディオに接する時間は大幅に増加した。新たな機器の投入は一連のMMカートリッジとそのスタイラス、スピーカーケーブルだけであったが、様々な試みによる変化量は例年より大きかったかもしれない。
此処ではあまり触れなかったがアナログ一辺倒かというとそうでもなく、元々好きなデジタル系についてもいくつかの試行錯誤を繰り返している。
今春で仕事を完全にリタイアの予定なので、時間はたっぷりとあるが資金はたっぷりとはないので今までのような大人買いは控えねばならない。
そのモラトリウムとして意味のある2020年であったかもしれない。