コロコロを直す

今では当たり前中の当たり前のことだが、スーツケースにキャスターが付き始めたのはいつのことだろうか。
1990年代半ばから後半、欧州の駐在員として暮らしていたころは、飛行機から到着後にターンテーブルを回るスーツケースをむんずと掴むと、その勢いのまま空港備え付けの手押し式のカートに積み込むのが普通だった。カートにはスーツケース3つぐらいまでは楽々載せられるし、一度載せてしまえば運動性能のよいものだった。バーを握っている手を放せば自動的にブレーキが掛かる機構が付いていて安全ではあったが、なにせデカくて取り回し性は決して良くなかった。スーツケースの積み下ろしも含めて腕力のない女性や老人にはちょっと辛いものだったかもしれない。

その頃から飛行機のクルー達は、折りたたみ式で重心の低いキャスター付きのフレームに小さなスーツケースと書類の入ったぶ厚めのブリーフケースを載せて颯爽と肩で風を切って歩いていたのが思い出される。
そのながれを受けたのか、2000年頃から機内持ち込みを前提としたサイズのスーツケースが2つの特長を持って台頭してきた。特長は①スーツケースそのものにキャスターが埋め込まれていること、②伸び縮みをするハンドルが背面に埋め込まれていることだった。数日の短い出張なら十分な着換えは入るし、ブリーフケースは別なので飛行機を降りれば、着替えや洗面具などの梱包を解くとこともなくすぐに仕事に取りかかれるという画期的な商品の登場だったのだ。
キャスター埋め込み式のスーツケースは年々大型化し、今ではほぼ全てのスーツケースがキャスター付きとなっている。キャスターの付いていないスーツケースをフウフウ言いながら運んでいる人を見ることも激減した。

と前置きは長くなったんだけど、愛用のキャスター付きスーツケース、通称コロコロ。サイズ的には2泊くらいの出張にぴったりサイズのものでお気に入りだったんだけどはキャスターがボロボロになってしまった。キャスターのトレッド部分のゴムが剥離してところどころ欠損している状況で、快適な移動はできないな〜という状態である。

すっかり劣化してしまったキャスター

スーツケース本体はどこも傷んでいないし、大きさ的にも色的にもお気に入りのものだったのでキャスターの修理をDIYしてみようという気になったのだ。
そうなればまずは何時ものようにGoogle/AmazonとYouTubeで調べる調べる。
そこでわかったことがいくつか。
①この手のスーツケースの故障のトップがキャスターの損傷。
②業者に修理に出すと法外な金額を請求される。(一万円〜)
③交換用のキャスターはAmazonなどで容易に入手できる。
④キャスター径や幅などのバリエーションは限られている。
ということなので、自分でキャスター交換をやってみることに決めた。

Amazonで購入した交換用のキャスター

また、YouTubeで実例をいくつか調べてみると、唯一の難工程は既存のキャスターの回転軸の外し方、片側をカシメた鉄の棒なので、カシメをドリルでさらうという人が一人いただけで、残りは全員金鋸で切断というやり方だった。
我が家にある金鋸をいくつか試してみたのだが歯が立たない。ということで歯の硬度が高く、グリップ等の造りもしっかりした金鋸を購入することにした。前々からしっかりした金鋸が欲しかったし、金鋸自体は汎用性のある工具なので今回の費用にはカウントしないことにした。この金鋸があれば勝算ありということでキャスターとシャフトのセットをAmazonで注文、キャスター一個あたり約400円というリーゾナブルさである。

シャフト切断用の金鋸

で、既存のシャフトの切断に取り掛かる。いや〜、新しい金鋸を以ってしてもかなり大変だ。大汗をかきながらなんとかやり遂げる。
新しいキャスターを取り付ける前に積もり積もったホコリを掃除してやる。世界中の飛行場のホコリが固まったものだけど未練なくブラシで除去。

次に新しいキャスターを取り付けるのだが、キャスター側面と本体側のホルダーの間にワッシャーを入れてやる。これがあるとないとではキャスターの軸方向の回転ブレが全然違う。新しいシャフトを貫通させる際にワッシャーを隙間から差し込んでやるのだが、思いのほか技術と根気のいる作業だった。
新たなシャフトの端部はネジ止めなので、万が一またキャスターが損傷した場合にもシャフトを切断せずにキャスターを交換できるというスグレモノである。

キャスター交換完了!

もう出張に行くことはないが、コロナがある程度終息してきたらこれに着替えを詰めて鄙びた温泉宿に行こうと思っている。