320dにした理由

BMWの320ディーゼルを買った。ボディタイプはツーリング、すなわちワゴンである。

そもそも今まで乗っていたゴルフ6はかなり気に入っていたのだ。
剛性の高い車体とカチっと締まった感じのサスペンション、質素ながらも質感の高い内装など、これぞグローバル・スタンダード・カーと呼びたくなるような素性の良さを端々に感じていた。
ゴルフは1990年代初めにゴルフ2を、2005年ごろからゴルフ4を、そして2010年から現在まで乗っているのがゴルフ6と3つの世代を乗ってきたのだが、それぞれの車の印象、そしてその裏に隠されたVWの車づくりのポリシーは微妙に変化している。
ゴルフ2は初代で得た名車としての素養をちょっと駄目にしてしまった車のように感じた。とか書き始めると「間違いだらけの・・・」みたいになっちゃうので止めていくが、僕なりの採点をするなら(要素別につけたいところだが、ここは総合点で)、ゴルフ2(GT)は65点、ゴルフ4(GL)が80点、ゴルフ6(TSi)が85点というところだろうか。
なんだかんだ言いながら、ゴルフは確実に進歩していたのだった。

で、その延長にある現行のゴルフ7が悪いわけがないと思って乗りかえを考えていたのだが、それと同時に意識したのがディーゼルの魅力。
欧州で売っているゴルフのディーゼル・エンジンは排気量2.0Lで4気筒の何の変哲もない今どきのディーゼル・ターボ・エンジンなのであるが、ゴルフだけでなくVWの他の乗用車、またアマロック(狼)という名のピックアップ・トラックにも搭載され、その生産量は年間100万台超といわれている名機である。
僕は短時間ではあるがアマロックを運転した体験があるのだが、あの2トンほどのピックアップをきちんと走らせるディーゼルの力強さには驚いた。
その後、フォードのピックアップの2.2L、これはすなわちマツダのスカイアクティブ・ディーゼルなのだろうが、も非常に好印象だったし、GMがタイで生産しているVMモトーリの2.8Lは出力だけをみれば更に高出力だった。
そもそも自分の会社の主力商品がディーゼル・エンジンなのだから、嫌というほどディーゼル搭載車には乗ってきたし、今どきの最新テクノロジーで武装されたディーゼル・エンジンが如何に強力で、静かで、経済的で、耐久性に優れているかは知り尽くしているつもりだ。
ということでゴルフ6の次なる車はディーゼルと決めていた。
ところがゴルフ7のディーゼルは出ない。「出る」という噂は毎年のように立つのだが出ないのである。
技術的には、特に排ガス規制適合に関しては日本のポスト新長期規制は世界的にも最も厳しい規制であることには間違いないが、欧州のEuro-6に適合する実力があればそんなに大きな変更を加える必要もないだろう。
ただし、排ガスの後処理を含めたディーゼルエンジンのコストは高い。コストのこなれた三元触媒だけで適合できるガソリンエンジンの2倍近いコストになるだろう。そのコスト差を価格にどこまで反映するか、すなわちガソリン車比どこまで高い価格設定をするかで折り合いがつかないのでディーゼルのゴルフが日本市場に投入されないのではないだろうかと想像する。

それを知ってか知らずか、マツダが積極的にディーゼル車を出してきた。アクセラ、アテンザ、CX-5にスカイアクティンブ-Dの2.2Lを、そしてデミオには1.5Lを。
マツダのディーラーでアテンザとアクセラに試乗させてもらった。更にはRX-8のリフレッシュ(足回りとエンジンマウント、シートなどの交換)をディーラーにお願いしていたので、その代車として出してくれたCX-5には数日間乗る機会を得た。
これが良いのである。
ガソリン並みの低圧縮比(13.4だったかな、現にスカイアクティブ-Gのガソリンエンジンとは全く同じ圧縮比なのだが)のおかげでディーゼルとは思えない静粛性。42Kgmにも及ぶ高トルクでけっして軽くはないCX-5を軽やかに走らせる。しかも燃費が良い。
「ディーゼルもついにここまできたか」と思わせる出来の良さだ。

で、マツダの車に買い換えるかというとまた考え込むのである。
マツダは最近大変元気である。経営状態が良くなってきたことで全ての面で好循環を生み出しているようだ。
車づくりにおいては、昔から独自の技術にこだわりと一家言をもったメーカーで、世界で唯一の量産ロータリーエンジン、世界のライトスポーツカーの範となったロードースターなどなどエポックメイキングな商品を生み出している。なんと言っても、かのルマン24時間レースで勝った唯一の日本メーカーなのである。
デザイン的にも比較的早くからコーポレートアイデンティティに基づいた統一感のあるスタイルを展開し好感が持てる。
そんなマツダに惚れてRX-8を買った私だが、ゴルフの替わりにアクセラを買うかというとそれはそれで悩ましい。
前述のように搭載されるスカイアクティブーDのエンジンは素晴らしいし、塊り感のある斬新なデザインも好きだ。
でも、ゴルフ→アクセラ=「格落ち」の感は否めない。アクセラの祖先はファミリアだし、ゴルフは外車、アクセラは国産車なのだから・・・この庶民の見栄が技術の進歩の最大の敵だったのだ。

という事で、ゴルフのディーゼルということになるのだが、出ないものをいつまで待ってもしょうがない。今年の8月でゴルフは2度目の車検だし。
と考えていた(毎日イライラとではなく、大脳の深層でじんわりとだけど)ところで友人がBMWの320dを買ったことを知った。しかもツーリング(ワゴン)である。
現行の3シリーズは6代目にあたるF30(ツーリングはF31)と呼ばれる世代で、欧州のDセグメントを代表する車だ。同じセグメントにはメルセデスのCクラスやアウディのA4などがあり、プレミアムブランドの主戦場とも言えるセグメントである。欧州ではもう少し小さい排気量のエンジンも搭載しているが、日本に入ってきているのは2.0Lと2.8Lの4気筒のガソリンターボとハイブリッド、そして2.0Lの4気筒のディーゼルターボである。
現時点の欧州Dセグメントの車で日本でディーゼルがあるのはBMWだけだ。

偶然にも昨年までタイで一緒に働いていた別の友人が320dを買っていたので早速乗せてもらった。10分程度、会社の敷地内を運転しただけだが、一言でその感想を言うとすれば「ディーゼルらしいディーゼル」である。
先のスカイアクティブ-Dに比べると明らかに大きな燃焼音と振動。圧縮比が16.5とディーゼルらしい数値なのが主因なのであろう。
ただしフィーリングは良い。数値ではスカイアクティブ-Dに若干は劣るものの38Kgmのトルクはどの車速からでも思いのままに加速をしていく。まさに「駆けぬける喜び」(Freude am fahren)である。
名作の誉れ高いZFの8速ATの働きも大きいだろう。
ネットで評判を確かめてみると、「素晴らしい加速フィーリングと燃費」と「音と振動はこの値段では堪え難い」の両極に分かれている。勿論、ほとんどの場合で比較相手はマツダのアカイアクティブ-Dである。
アクセラに比べると200万円ちょっと320dの方が高い。悩みどころだ。

父は車が好きだった。
若い頃は日産のローレル(白いランドウ・トップ)やグロリアに乗っていたが、息子がいすゞに就職したのを期に117クーペからピアッツァへと乗り継いだ。
息子への義理も果たしたと思ったのだろう、またいすゞが乗用車事業から撤退したこともあって買ったのがBMW320だった。
今のF30から見るとふた周りぐらい小さいボディのE30と呼ばれる2世代目の3シリーズで、搭載されるエンジンは2.0Lの6気筒だった。
エンジンの出力だけで比べれば直前まで乗っていた4気筒2.0Lターボのピアッツァの方が大きいが、「シルキーシックス」と呼ばれる6気筒エンジンは名機、滑らかな回転と秘められた力強さのバランスが素晴らしかった。
父はその後第3世代のE36系まで乗り継いでその車遍歴にピリオドを打ったのだった。
その息子が6世代目の3シリーズを買うのは自然な流れであろう、と我が家の歴史を勝手に解釈して320dを契約するに至ったのだった。

天国の父に見せびらかしたい気分である。