マイカーの軌跡 ⑤

(転換期)アスカ、RX-8、マーチ、ゴルフ4、ゴルフ6、BMW320d、ロードスター

1998年7月、欧州での駐在を終えて帰国した。

車通勤なのですぐに車が必要。あまり深く考えもせずにホンダからのOEMのアスカを購入した。ホンダのアコードのバッジ違いである。

いすず アスカ

どこにも尖ったところのない平凡なセダンだったが、結局この車には8年も乗ることになる。実はとてもバランスの良い車だったのだ。

この車で初めてカーナビというものを付けてみた。今のカーナビと違って単機能なものだったが、カーナビそのものの機能はほとんど揃っていた。
一度カーナビを付けてしまうとカーナビの案内なしで遠出をすることは全くなくなった。かつて都内の狭く複雑なルートを記憶だけを頼りに走ったあの能力はどこかに霧散してしまった。

2002年ごろから東京の本社勤めとなったので、家人に駅までの送迎をしてもらうためのセカンドカーを持つようになった。 まずは日本の道の慣熟のためにということで、とてつもなく安い中古のマーチを購入。

日産 マーチ

このマーチ、運転はしやすいし故障知らずで大変重宝した。 でもちょっと家人が気の毒で(英国のミニと同じで)、2004年にゴルフ4に乗り換えた。

VW ゴルフ

前述したように1990年ごろにはゴルフ2に乗っていたし、後述するがこのゴルフ4は後年ゴルフ6に乗り換えるので、偶数世代のゴルフは全て所有したことになる。
世代を重ねるごとにゴルフは着実に進化している。GTIやR32のように高出力のエンジンを積んだスポーツモデルもあるのだが、ゴルフの良さはこうしたベーシックモデルにあると思う。 2L 直列4気筒SOHCのこのゴルフはまさにそうした車だった。
トルコンのATは4速になり高速も快適、固くはないがしっかりとした足回り。ベーシックではあるが質感の高い内装など世界的なベストセラーになるだけのものをもった車だった。

その一方で長く乗ったアスカだったが、いつかはロータリーエンジンの車に乗ってみたいという思いが以前よりあったので、マイナーチェンジでATが6速化されたRX-8に2006年末に乗り換えた。スポーツカーらしい車を持つのは初めてだった。しかも久しぶりのFR。

マツダ RX-8

RX-7のようなターボではなく、NA(無過給)ロータリーエンジンのRX-8ではあったがそのエンジンフィーリングは素晴らしかった。8千回転近くまでストレスなく回りきる。
また4ドアながらも剛性を保ったボディと路面追従性の良いサスペンション、素晴らしい効きのブレーキのおかげで伊豆スカイラインなどを走ると極上の気分。

またその流麗なスタイリングにも惚れ込んだ。

唯一の欠点は燃費の悪さ、生涯平均は5km/Lちょっと。夏場などで渋滞にはまると3km/Lまで悪化する。環境に優しくない、お財布にも優しくない車だったが、所有する満足度は今までの中でダントツの1番だった。

途中4年間のタイへの単身赴任もあったがなんとかRX-8を所有し続けた。
タイからの帰国後にスポーツサスペンション、レカロシートなどを入れてリフレッシュしたRX-8は2015年末までの9年間をともに過ごした最高の相棒だった。

この間、家人の車にも変化があった。

2004年に購入したゴルフ4を2010年にゴルフ6に乗り換えた。タイへの駐在が決まり、残す家人には故障の不安のない新車に乗ってもらうことにしたのだった。

VW ゴルフ

この6世代目のゴルフは1.4Lのターボエンジンで7速のDCTというパワートレインの車で、小排気量過給のエンジンには従前の2L無過給との大きな差は感じなかったが、DCTという機構の変速機の動き出しの違和感は最後まで感じた。

ただ全体的なバランスの良さには磨きがかかり、ベーシックだけれども必要十分な性能と高い品質を持った車だった。

ゴルフ6の次はディーゼルのゴルフ7という予定でいたのだったが、そこで起こったのが例のディーゼルスキャンダルだった。 VWの 組織ぐるみの排ガス認証の不正が明るみに出たせいもあったのか、ディーゼルエンジンを載せたVW車が日本に登場するのはずいぶんと先送りされることになったのだった。

そこでゴルフ6の後継車として突如候補に挙がったのがBMW320dだった。

ちょっとしたきっかけで東京のディーラーに試乗に行ってきた。乗ったのはガソリンエンジンの320iだったが、思いのほか家人が気に入った様子だったので320dを購入するはこびとなったのだ

実は80年代に父が320に乗っていたことがある。E30という型式の車だ。直列6気筒の2Lエンジンは「シルキーシックス」と呼ばれる名機で素晴らしいフィーリングだった。直前までのっていたピアッツアの2Lターボの方が高馬力ではあったのだが、それを上回る力強さと滑らかさが印象的だった。父はE36まで乗り継いで亡くなった。

それ以来のBMW3シリーズ。型式はF30になっていた。エンジンはディーゼル、そしてボディはワゴンを選んだ。

BMW 320d

このF31(ワゴン型式はF31)、動力性能、燃費、操縦安定性、乗り心地のどれをとっても素晴らしい。家人の車にしては大変高価・高級な車だが、当分はこの車を乗ることになるだろう。

そしてRX-8の後継車。

9年目、4回目の車検の相談をしにいった2015年12月。9年乗ったRX-8を思いのほか高く下取りするという話に乗ってロードスターへの乗換えを決意する。愛着のあるRX-8だが、もう散々楽しめたのでそれぞれが新しい道に進む好機だと考えたのだった。

マツダ ロードスター

NDと呼ばれる4世代目のロードスターは小型軽量を最大の特徴とするスポーツカーだ。ある意味先祖帰りしたとも言えるだろう。このひとつ前のNCはRX-8と共通のプラットフォームだったのでロードスターにしてはいささか大きく重過ぎた。結果的に高出力の2Lエンジンを積むことでスポーツカーとしての性能はなんとか担保できたものの、ロードスター本来の身軽さはスポイルされてしまったのだった。その反省を踏まえて登場したのがNDだったのだと思う。

エンジンはDOHCながらも1.5Lと小排気量でスポーツカーとしては低い出力。しかしながら最軽量モデルでは1トンを切る軽量でライトウェイトスポーツの良さを全身で感じることができる。

またなんといってもオープンにできる魅力は大きい。

どちらかというとガチガチに固めたRX-8の足から、柔らかいがねばりのあるNDの足に乗り換えると最初は頼りなさを感じるのだが、実はとても限界は高いのだった。

ある意味RX-8とは正反対の車なのだが、RX-8の後継としては素晴らしい車である。

以上が僕の所有した車の遍歴というか足跡である。

実はこれを書いている今もNDを次なる車に乗り換える計画が進行中である。

オーディオと違い、車の技術は年々すごい勢いで進化している。特に昨今はセンシング技術やAIとの組み合わせで高機能な安全装置や自動運転が身近なものになりつつあるし、車そのものが知能をもった生き物のような存在になりつつあることは驚異的な出来事ではあるが、確実のその方向に向かいつつあることを誰もが実感している。

その反面、車はオーディオと同様に趣味性の高い側面も併せ持っている。
A地点からB地点にいかに確実に、安全に経済的に早く移動するのが車の本来の機能ではあるが、その機能そのものが同じであっても達成の方法は様々だし、同じ機能を持った車の価格は10倍いや100倍ものレンジとバリエーションを持っている。同じ道路に軽トラックとフェラーリが混在して走っているのが車社会の現実だ。

人生の彩(いろどり)の一つとして車の存在を捉えている人にとっては、人生に於ける大きな買い物の対象として車を考えるし、ある程度の年齢に達するまでその所有欲は衰えることをしらないのではないか。車はその対価に応じた喜びをもたらしてくれるのだから。

そんな車という存在と出会えたことが僕にとってはとても嬉しい。

ここに書いてきた多くの車たちとの出会いは僕の人生そのものといっても過言ではないだろう。

あと何台の車を所有することになるのかはわからないが、これからも人生のよき伴侶としてお気に入りの車と暮らしていくことが楽しみだ。

いつか続く・・・