オーディオの足跡(終章)

<オークションにハマる>

 19987月、約5年ぶりに日本に戻った。

長男は中学生、長女も小学生になっていた。
帰国後約1年間は以前のマンションに住んでいたが、翌1999年末に多少広いマンションに引越し、オーディオルーム(リビングルーム)も少し広くなった。
オーディオルームの新旧を比較すると、容積(広さx高さ)が大きくなった、壁の剛性が上がった(RC構造からPC構造に)という面では新が旧に対して優れるが、その反面スピーカーと対抗する面に襖がある、レイアウト的に(家具の都合もあって)スピーカー間隔が広すぎるという点では多少の不安が残った。

オーディオ機器に関しては当面大きな変更は無かった。 

この頃よりヤフーオークションと通販(主としてAmazon)を活発に使い始めていた。
最初のうちは小物を中心に落札したり購入したりしていたが、段々と対象が大物に移行。

まず手に入れたのがティアックのCDプレイヤーVRDS-10だった。
テクニクスのSL-P900のピックアップのパワーが経年劣化で落ち、CDの読み取りが不安定になっていた。

それに替わるプレイヤーには生産終了間際のティアックVRDS-15を考えていたが、少し逡巡している間に近所のオーディオショップでは完売となり、問屋に問い合わせてもらったがメーカーにも在庫は無かった。

VRDS-15
の直接の後継機は無く、前々からティアックのVRDSシステムに魅力を感じていたのでこれは痛かった。

そこで思いついたのがヤフーオークション。VRDS-10の出物を探した。
程度の良さそうな出物に的をしぼり、真夜中までかかって落札、5万円弱だった。

 

数日後に発送されてきたVRDS-10は非常に良いコンディションだったが、搬送ロックがうまく解除できずに破損、即刻の修理入院となった。(出品者が良い人で修理代をもってくれた。)

VRDS-10はティアック独自のVRDSVibration-Free Rigid Disc-Clamping System)を搭載したCDプレイヤーである。
上面の小窓からVRDSの円盤状のクランプがCDをビシっと押さえるのが見える。剛性最優先の設計で、フロントパネルにはヘッドフォーンの穴すらない。
無骨な外観は質実剛健を地でいく思想を感じさせ、実際に出てくる音も見た目どおり線の太いもので先代のSL-P900の繊細・華麗な音とは対極となるものだった。

このVRDS-10は途中ティアックによるピックアップの交換などを経て2012年まで活躍、その後継もまたVRDSシステム搭載のティアック(エソテリック)のK-05となるわけである。

順番が前後するが、VRDS-15の最終ロットを買い損ねた日、手ぶらで変えるのも癪なので、且つVRDS-15を逃したショックを癒すためか、たまたま限定値引き期間だったためかは定かではないが、衝動的にアキュフェーズのプリ・メインアンプE-213を購入した。

 

E-213はアキュフェーズのプリ・メインアンプのローエンドにある製品ではあるが、それでもものづくりの雄アキュフェーズ製品の品格を感じさせるアンプだった。

左右チャンネルのパワー・メーターの格好良さも購入の後押しをした。
SN
比が高く、アコースティックな響きが美しいアンプ、生真面目で清楚な日本人という印象だった。

VRDS-10に気をよくして、ヤフーオークション熱はヒートアップ。今度はテクニクスのSH-8066というグラフィック・イコライザーを手に入れた。

 

12バンドのイコライザーで、特徴はダイレクト・タッチボードによる触れるだけのイコライジング・カーブ入力である。タッチボードに触れた指でイコライジング・カーブを描くと、面白いように音が変わる。 ただ、面白がってやっていると何がなんだか分からなくなるというデメリットもあった。
これはあまり使わないうちに、サンスイのSE-88という14バンドのグラフィック・イコライザーに置き換えられることになった。

SH-8066SL-P900同様に友人のテクニクス博物館に貯蔵されている。

ドイツに赴任する直前に買ったソニーのTC-K222ESAが日本への帰国後突如不調になってしまい、録音も再生もできなくなってしまったので後継となるカセットデッキをオークションで物色。
VRDS-10
とシリーズ化された外観のV-8030Sが出品されていたので落札した。

V-8030Sはティアックの本格的なデッキの最終作である。

ドルビーSにも対応しているし、テープのバイアス調整などもしっかりしているのだが、なんといっても録音レベル調整機構が凄い。測定機器グレードの超精密ボリュームのノブはアルミ削り出しだ。
カセット・ハーフをがっちりと押さえ込むアンチスタティック・カセットスタビライザーとトライアングル・カセットサポートシステムのついたV-8030Sで再生すると、20年以上前に録音した懐かしいテープが録音当時の音よりも素晴らしい音質で甦る(ような気がした)。
V-8030Sはいまだ現役である。 

FM/AMチューナーもオークションで手に入れた。
元はといえば、それまで使っていたテクニクスのシンセサイザー・チューナーは川原に不法投棄された粗大ごみだった(**;。それをなんと10年近くも使っていたのだが、もう少し見た目も音も良いものをと思いトリオのKT-8100を落札した。

 

4連バリコンとそんなにハイスペックではないが、アナログの良さを感じさせるゆったり・のびのびとした音を聴かせるチューザーだった。

ある日ふと気が付くと、アンプとスピーカー以外はオークション落札品ばかりになっていた。

 

<デジタルの救世主>

学生時代から親しんできたLPレコードは、ヨーロッパの赴任前に会社の後輩にプレイヤーとともに譲ってしまった。(今考えるとLPだけでもとっておけばよかった・・・)
よって、時折FMを聴くことを除けば音源は基本的にデジタル(CD)のみなのである。
VRDS
機構を搭載はしているものの、我が旗艦VRDS-10が如何にも古く感じつつあったある日思いついた。
VRDS
のメカ部分は最高なのだから、DAC(デジタル~アナログ変換)に手を入れれば音は必ず良い方向にいくはずだと。実はVRDS-10DACDAC-7というフィリップス開発の1ビット方式の名機だということを後に知ることになるのではあるが、この時は最新のDACにしようという一念でDACを物色した。

久しぶりに新品のオーディオ機器となるCECDA-53を購入した。

バーブラウン製のDACチップ、PCM1796を搭載した国産機である。

CECという会社、それまではあまり知らなかったが、いかにも技術力のありそうな感じで「これはいける!」と思ったのだ。
VRDS-10
から同軸ケーブルでデジタル信号を取り出しDA-53に送る。DA-53でアナログに変換された信号はバランスケーブルでE-213へ。
格好良い!

DA-53を繋いだことでVRDS-10の音は現代的な音となった。SN比、解像度や音像の定位感などがグーンと上がって、見晴らしの良い爽やかな音になった。
しかしながら、これが必ずしも良いことかどうかが問題なのである。

周囲の機器の傾向を見ると、アンプのE-213は爽やか系、スピーカーのSX-500 Spiritも爽やか系であるところに、本来は体育会系だったVRDS-10の音まで爽やか系になってしまったのだからたまらない。
僕はどちらかというと、ゴリゴリとした力強さとか紫煙に煙る臨場感とかが好きなのだが、爽やかなること清流の如しというような音になってしまったのである。
これが正常進化の行き着くところなのか・・・うーん困ったぁ、という毎日だった。

そこに救世主のように現れたのが、Lo-DのスピーカーHS-1400だった。

 

実はこのスピーカーは30年以上も前から知っている固体だった。

親友のお兄さんのスピーカーで、親友宅に遊びに行くとモダンジャズだったりイーグルスなんかの洋楽がとても良い音で鳴っていた。

構造的にはASWAcoustic Super Woofer)方式、もしくはケルトン方式といわれる3ウェイで、内部に隠されたウーファーが豊かな低音を産み出すのだった。

紆余曲折があり、その固体が僕のところに回ってきた。

背面のターミナルがぐらぐらだったので大きくがっちりしたものに付け替えたり、後にスーパーツィーターを追加したりしたけれど、基本的にはそのまま鳴らしてみた。
見た目通りに悠々とした音を奏でるスピーカーだった。低音も実にゆったりと出てくる。
このスピーカーが僕を「爽やか地獄」から救ってくれた。
久々に味わう満足感と達成感であった。

しかし、「救世主」と呼ばれたHS-1400もこの数年後にビクターのSX-M7に置き換わり、そのSX-M7もJBL-4338へと代わっていった。輪廻転生である、オーディオは・・・

<終章>

以上が1970年代からの30年あまりの僕のオーディオの足跡である。
この記述の後、今にいたるまでにも機器の入れ替えはあったし、これからもあるだろう。
指折り数えてみると、アンプや音源類は第四・第五世代まで、スピーカーにいたっては第七世代まで来てしまったが、ゴールはまだまだ先にあるような気がする。

機器の入れ替えだけがゴールへ至る道でないことは自明の理ではあるが、物欲と向上心があり続ける限りその煩悩から逃れられることはないであろう。

その欲求の根底にあるものが、何なのかはきっと死ぬまでわからないだろうなぁと思いつつ、とりあえずこのシリーズの筆を置くことにしよう。

 

(きっとまたいつか続く)

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