V15 Type-4の蘇生 ②

オーディオを構成する何かを変えた時は「Waltz for Debby」を聴くことにしている。聴きなれた曲なので変化点を感じ易い。
但し、そしてカートリッジなどのアナログ機器は「暖機」と「慣らし運転」をきちんとやってやらないと真の性能を発揮できないことが多いので(デジタルでもその傾向はあるが)、「Waltz for Debby」のアタマの「My Foolish Heart」はパッとしない音色になることを割り引いて考える必要がある。

ビル・エバンス
Waltz for Debby

「Waltz for Debby」のA面を聴き終えたらグールドの「ゴールドベルク変奏曲」に。これがいつもの道順だ。段々良くなってきた。

グレン・グールド
ゴールドベルグ変奏曲

バックハウスのベートーヴェンの後期ピアノソナタ「ピアノソナタ第30番」に進むころにはウォームアップが完了したようだ。1964年発売のこのレコードはちょっとスクラッチノイズが多いんだけどお気に入りの一枚だ。
出初めはちょっと神経質で線の細い印象のType-4だったが徐々に力強い音がでてくるようになってきた。まさにグランドピアノというような響きと余韻だ。この音は残念ながら我が家のデジタルオーディオ環境では絶対に出そうもない音だ。

バックハウス
ベートーヴェン
後期ピアノソナタ

キースジャレットの「生と死の幻想」を掛ける。このレコード、最初は「なんじゃこりゃ」と誰もが思うのではないか。お遍路さんの鈴みたいなパーカッションから始まる。多くの人がここでこのレコードに見切りをつけてしまうのか中古レコード屋に行くと大変綺麗な「生と死の幻想」がかたまって置いてある。でもここを乗り切れば段々と良い感じになっていくのだ。録音も良い。Type-4で聴くと繊細で豊饒な音が押し寄せてくる感じ。「リリカルであってロマンチックでありながらスリリング」と評した人がいるが絶妙な表現であると思う。

キース・ジャレット
生と死の幻想

ここまで聴いて感じたのはこのカートリッジ、帯域も広いしSN比も良い。ただそれだけだと神経質で勉強のできる模範生ということになってしまうのだろうが、実は叙情的な表現も上手だし底力もある。
普及機のM44Gとは生まれも育ちも違うV15シリーズの実力の片鱗を垣間見たような気がする。
V15シリーズではType-3(Ⅲ)がダントツに有名で、一関の「ベイシー」の影響もあってジャズファンには人気が高いらしい。
その陰に隠れたType-4が名機であることをどれだけの人が知っているのだろうと思うと、ちょっと得した気分になった。

SHURE V15 TYPE-4