牛殺

M44シリーズ、V15シリーズと色々と楽しませてくれるSHUREのMMカートリッジだが、今回はカンチレバーの材質違いだ。
カンチレバーにはアルミを代表とする金属粗材が使われることが多いのだが、金属は強度の高さ、加工のし易さ、大量生産時の品質の安定性などが優れているからだろう。ボロンやサファイヤなどの変わり種もあるが非常に高価だ。
そこに敢えて天然素材(こっちは「粗材」じゃなくて「素材」かな、なんとなく)を使ったものにも挑戦しているのがJICOだ。
我が家にもM44G用の(M44-7にも使える)交換針に黒柿製のカンチレバーを使ったものがあり、愛用のM44G Woodyの構成要素の一つにもなっている。
JICOでは黒柿以外の天然素材にも着目しているようで、商品化の第二弾として登場したのが「牛殺」(ウシゴロシ)だ。「牛殺」はバラ科の木で、牛の鼻木や鎌の柄などに使われる強靭な材質らしい。試作品を評価しているオーディオ評論家、ヴィニールジャンキーの田中氏によればかなりドスの効いた低音をゴリゴリと押し出す性格らしい。
ということで、7月から販売開始された「牛殺」を早速ゲットした。

「牛殺」2種

M44用とV15 Type-3用である。そんなに高価なものではない。
まずはリファレンスとしているV15 Type-3で試してみる。

V15 Type-3に装着した「牛殺」

真っ黒な「黒柿」とは違って「牛殺」は木の色だ。見方によっては爪楊枝のような外観。
で、さっそく聴いてみる。取りあえずはいつもの「Waltz for Debby」で。

V15 Type-3と「牛殺」

事前の予想とはちょっと違う音の傾向。全般的にはそのネーミングの印象とは異なるたおやかな音とでもいおうか。元々付いていたJICOの「ベイシーモデル」は音の輪郭がくっきりしてカチッとした低音が出てくるのだが、それよりも柔らかくて優しい音。但しこの傾向の違いはカンチレバーの素材よりは針先の形状が効いているのかもしれない。

M44Gでも聴き比べてみる。
こちらはカートリッジのハウジングをシルバーハートの黒檀製のものに換え、ヘッドシェルも山本音響工芸の黒檀製にしてある通称「M44G Woody」の方だ。
せっかくなので、M44GのSHUREオリジナルスタイラス、JICOの「黒柿」、そして今回の「牛殺」の三つを差し替えながら聴いてみる。今度はカーティス・カウンス・グループの「Landside」のB面1曲目の「MIA」で。

SHUREオリジナル、「黒柿」、「牛殺」

スタイラスをとっかえひっかえしているうちに前の音を忘れそうなので、夫々をDA-3000でDSD録音しておいて聴きなおす。
簡単に優劣や特徴を言い表すことはできないのだが、第一印象としてはSHUREオリジナルに比べるとJICOの二つの方が格調が高いというかワンランク上の音。
JICO同士ではV15 Type-3の時と同じように「黒柿」よりも「牛殺」の方が低音の出方は奥床しい印象だ。
今回は三つとも針先の形状が同じなので、カンチレバー素材の違いが音に表れているのだと思う。

M44G Woody + 「牛殺」

この件、更に掘り下げる必要がありそうだ。興味は尽きない。

追記:晩御飯を食べたあと、最近あまり聴いていないロック、ポップス系のLPを聴いてみたらこれが良い。イーグルス、ビートルズ、ジョージベンソン、音が若々しいし力強くてノリが良い。「牛殺」の本領発揮か。このジャンルを掘り進んでみよう。