アナログ祭り(後編)

LPの音をカセットテープへ録音して聴き比べという究極のアナログ祭りの結果はどうだったのか?

<その①>
アルバム: ゴールドベルク変奏曲
奏者: グレン・グールド
A面: 1955年モノラル盤
カートリッジ: デノン DL-102
B面: 1981年ステレオ盤
カートリッジ: フェーズメーション PP-300
再生機器: SL-1200GAE
録音機器: V-8030S
カセットテープ: TDKのメタルテープ MA-R90
ノイズリダクション: Dolby-S

<その②>
アルバム/奏者: Scott Hamilton
A面カートリッジ: シュアー V15 Type-3(スタイラス:JICOベイシーモデル)
B面カートリッジ: フェーズメーション PP-300
再生機器: SL-1200GAE
録音機器: V-8030S
カセットテープ: TDKのメタルテープ MA-XG90
ノイズリダクション: Dolby-S

で、結果は如何に?

①の見どころ、いや聴きどころはモノラルvsステレオといった録音フォーマットの違いだと言いたいところだがそんなに単純な話ではない。四半世紀の時を経た一人の音楽家の成長、レコーディングエンジニアによる音づくりの違い、アナログからデジタルへという録音環境の違いなどが複雑に絡み合う。
演奏時間の違いにもびっくりした。同じ奏者、同じ曲目なのに1955年盤では片道45分(実際には46分強)に余裕をもって入るのだが、1981年盤では寸足らずとなってしまった。元々演奏テンポの速いグールド、実際に1955年盤を手に入れるまでは1981年の演奏でも他の奏者に比べると相当早いゴールドベルク変奏曲だとは思っていたが・・・1955年盤の速さときたらビックリものなのである。
計測器による音質やSN比などでは言うまでもなく1981年盤の方が良いに決まっているが、実際に聴き比べてみるとそうでもない。寧ろ1955年盤にはモノラルの良さもあり甲乙をつけ難いのである。
ということで、この対決は引き分け。

②は①に比べると非常に分かりやすい比較となる。MMカートリッジの定番と高級MCカートリッジの対決である。米国製品と日本製品の対決でもある。
中実且つ輪郭が鋭角で彫りの深いMCに対し、開放的な空気感、弾力、暖色系のMM。また精密工学の粋を凝らしたPP-300に対し、大陸的な大らかさとダイナミクスを感じるV15 Type3である。
ということで、結論としては僕的にはこの対決に関しては圧倒的にV15 Type-3が良かった。

<おまけ>
カセットテープのたおやかな音に心打たれた僕は引き出しからイニシエのカセットテープを発掘してきた。実に40年ぶりのテープ達。
親友のお兄さんのジャズコレクションの中から借りてきたLPを丁寧に録音したものだ。僕のジャズの原点のようなテープ、そのほとんどがノーマルポジションのテープで、Dolby-Bで録ってある。デッキはソニーのTC-4250SD、当時の僕の宝物だった。
綺麗にレタリングしてあるところが感動ものだ。てっきり寝ぼけた音になっているかと思ったが全くそんなことはなかった。V-8030Sが頑張ってくれているのかもしれないが当時の音が鮮明に蘇る。
親友もそしてそのお兄さんも既に他界してしまったのだけれども、こうして元気な音を聞くと当時の景色がフラッシュバックするようだ。

イニシエのテープ達

オークションで手に入れてから何回もTEACで修理してもらったV-8030Sだがやっと活躍の場を与えることができて嬉しい限りである。
理論的にはLPからカセットテープに録音されたことによって音源としてのSN比は悪化していくはずなのだが、何故か琴線に触れる音になっていると感じるのは僕だけであろうか。魔法の調味料をふりかけたように優しくて奥床しい音なのだ。